@清江娘子 巻1-69、A弓削皇子 巻2-121、B高市黒人 巻3-283、C未詳 巻6-932、D守部王 巻6-999

  E安倍朝臣豊継 巻6-1002、F未詳 巻7-1147、G未詳 巻7-1156、H未詳 巻7-1159、I未詳 巻7-1273

  J未詳 巻7-1274、K未詳 巻7-1275、L未詳 巻7-1361、M未詳 巻10-1886、N未詳 巻10-2244

  O未詳 巻12-3076、P多治真人土作 巻19-4243
   清江娘子(すみのえのをとめ)の長皇子に進(たてまつ)れる歌
  @草枕 旅行く君と 知らませば 岸の埴生に にほはさましを

   弓削皇子の紀皇女を思(しの)へる御歌
  A夕さらば 潮満ち来なむ 住吉の 浅香の浦に 玉藻刈りてな

   高市連黒人の歌
  B住吉の 得名津(えなつ)に立ちて 見渡せば 武庫の泊りゆ 出づる船人

   (車持朝臣千年の作れる歌)反歌(未詳)
  C白波の 千重に来寄(きよ)する 住吉の 岸の埴生に にほひて行かな

   守部王の歌
  D血沼廻より 雨そ降り来る 四極(しはつ)の白人郎(あま) 網手乾(ほ)したり 濡れにあへむかも
   右の一首は、住吉の浜に遊覧(いでま)して、宮に還りたまひし時に、道の上(ほとり)にて、守部王の詔に応へて作れる歌なり。
   (住吉の浜遊覧の後、難波宮への帰途において守部王が聖武天皇の仰せに応じて作った歌。)


   安倍朝臣豊継の歌
  E馬の歩み 抑(おさ)へ駐(とど)めよ 住吉の 岸の黄土に にほひて行かむ
   右の一首は、安倍朝臣豊継の作

   摂津にして作れる歌
  F暇(いとま)あらば 拾ひに行かむ 住吉の 岸に寄るといふ 恋忘れ貝

   摂津にして作れる歌
  G住吉の 遠里(とほさと)小野の 真榛(まはり)もち 摺れる衣の 盛り過ぎゆく
 
   摂津にして作れる歌
  H住吉の 岸の松が根 うちさらし 寄せ来る波の 音のさやけさく
 
   旋頭歌
  I住吉の 波豆麻(はづま)の君が 馬乗衣(うまのりごろも) さひづらふ 漢女(あやめ)を据ゑて 縫へる衣ぞ
 
   旋頭歌
  J住吉の 出見の浜の 柴な刈りそね 娘子らが 赤裳の裾の 濡れて行かむ見む

   旋頭歌
  K住吉の 小田を刈らす子 奴(やっこ)かもなき 奴あれど 妹がみためと 私田(わたくしだ)刈る

   花に寄せたる
  L住吉の 浅沢小野の かきつはた 衣に摺り付け 着む日知らずも

   逢ふを懽びたる
  M住吉の 里行きしかば 春花の いやめづらしき 君に逢へるかも

   水田(こなた)に寄せたる
  N住吉の 岸を田に墾(は)り 蒔きし稲の さて刈るまでに 逢はぬ君かも

   物に寄せて思ひを陳べたる
  O住吉の 敷津の浦の 名告藻(なのりそ)の 名は告(の)りてしを 逢はなくもあやし

   民部少輔多治真人土作(たちひのまひとはにし)の歌
  P住吉に 斎(いつ)く祝(はふり)が 神言(かむこと)と 行くとも来(く)とも 船は早けむ
  
口訳   @旅のお方だと存じ上げていたら、岸の黄色い土であなたの衣を染めて差し上げましたのに。

  A夕刻には潮が満ちてくる。住吉の浅香の浦で人知れず玉藻を刈りましょう。

  B住吉の得名津に立って見渡すと、いましも武庫の港から出航してゆく船人よ。

  C白波が幾重にも押し寄せる住吉の浜の黄土に、衣を美しく染めて行きたいものだ。

  D血沼の浦のほうから雨が降ってきた。四極の漁師たちが網を干しているのに濡れてしまうのではないだろうか。

  Eさあ手綱を引いて馬のあゆみを留めるがよい。ここ住吉の岸の美しい黄土で衣を染めて行こう。

  F職務に暇があったら拾いに行こう。住吉の岸に打ち寄せられるという恋忘れ貝よ。

  G住吉の遠里の小野の美しい榛で摺り染めにした衣が色あせていく。(盛りの年も過ぎていくよ)

  H住吉では寄せ来る波が岸の松の根を洗い出しているが、その波音のなんと清々しいことよ。

  I住吉の波豆麻のあの方の乗馬服は、中国の女性を雇って縫わせた服なんですよ。

  J住吉の出見の浜の柴を刈らないでください。乙女達が赤裳の裾を濡らしていくのを見たいから。

  K住吉の田を刈っているあなた、働かせる奴はいないのかい。奴はいますよ。でも今はいとしい子のため自分で妻の私田を刈っているのです。

  L住吉の浅沢の小野に咲いたかきつばたよ。その色香で私の衣を染めて着る日はいつ来るのだろうか。

  M住吉の里を通っていったら、春の花のようにますます心惹かれる君に出逢ったことですよ。

  N住吉の岸を田に耕して蒔いた稲を、こうして刈るまでずっとあなたに逢っていないことだよ。

  O住吉の敷津の浦の名告藻(ホンダワラ)のように、わが名は告げたのに、あなたはちっとも会ってくれないではないか。

  P住吉大社にお仕えする神職のお告げにあるように、行きも帰りも船は安全で、速いことでしょう。   
原文    清江娘子進長皇子歌
  @草枕 客去君跡 知麻世波 崖之埴布尓 仁寶播散麻思呼

   弓削皇子思紀皇女御歌
  A暮去者 塩満来奈武 住吉乃 淺鹿乃浦尓 玉藻苅手名

   高市連黒人歌
  B墨吉乃 得名津尓立而 見渡者 六兒乃泊従 出船人

   (車持朝臣千年作歌一首)反歌
  C白浪之 千重来縁流 住吉能 岸乃黄土粉 二寶比天由香名

   守部王歌
  D従千沼廻 雨曽零来 四八津之白水郎 網手乾有 沾将堪香聞
   右一首、遊覧住吉濱、還宮之時、道上、守部王應詔作歌。

   安倍豊継歌
  E馬之歩 押止駐余 住吉之 岸乃黄土 尓保比而将去
   右一首、安倍朝臣豊継作

   摂津作歌
  F暇有者 拾尓将徃 住吉之 岸因云 戀忘貝

   摂津作歌
  G住吉之 遠里小野之 真榛以 須礼流衣乃 盛過去
   
   摂津作歌
  H住吉之 岸之松根 打曝 縁来浪之 音之清羅
 
   旋頭歌
  I住吉 波豆麻公之 馬乗衣 雜豆臈 漢女乎座而 縫衣叙

   旋頭歌
  J住吉 出見濱 柴莫苅曽尼 未通女等 赤裳下 閏将徃見

   旋頭歌
  K住吉 小田苅為子 賎鴨無 奴雖在 妹御為 私田苅

   寄花
  L墨吉之 淺澤小野之 垣津幡 衣尓揩著 将衣日不知毛

   懽逢
  M住吉之 里行之鹿歯 春花乃 益希見 君相有香聞

   寄水田
  N住吉之 岸乎田尓墾 蒔稲乃 而及苅 不相公鴨

   寄物陳思
  O住吉之 敷津之浦乃 名告藻之 名者告而之乎 不相毛恠

   民部少輔丹治真人土作歌一首
  P住吉尓 伊都久祝之 神言等 行得毛来等毛 舶波早家无   
場所  大阪市住吉区住吉・住吉大社 (揮毫者・−)
写真  















  

  

  

  
2013.1.9
万葉集で住吉を詠んだ歌は20首程ありますが、今と違って当時の読みはすべて「すみのえ」です。
現在の国道26号線あたりが古代の海岸線で、住吉津(すみのえのつ)と呼ばれる国際貿易港がありました。
この港がシルクロードの日本の玄関口で、陸路まっすぐ東に向かうと奈良盆地の明日香に通じます。
もちろん、遣隋使船や遣唐使船もここを発着港としており、出港の前には必ず住吉大社で航海の無事を祈っていました。



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