山部宿禰赤人 巻3-324・325
   神岳に登りて山部宿禰赤人の作れる歌一首併せて短歌
  三諸の 神名備山に 五百枝(いほえ)さし 繁に生いたる つがの木の いや継ぎ継ぎに 玉かづら
  絶ゆることなく ありつつも 止まず通はむ 明日香の
  旧き京師(みやこ)は 山高み 河雄大(かはとほしろ)し 春の日は 山し見がほし 秋の夜は 河し清(さや)けし
  朝雲に 鶴(たづ)は乱れ 夕霧に 河蝦(かはづ)はさわく 見るごとに 哭(ね)のみし泣かゆ 古(いにしへ)思へば
   反歌
  明日香河 川淀さらず 立つ霧の 思ひ過ぐべき 恋にあらなくに
口訳   神の天くだる山に、多くの枝をひろげて繁っている栂の木のようにますます次々と、
  美しいつる草の伸びてやまぬように絶えず通いつづけたいと思う明日香旧都は、
  山も高く川も雄大に流れている。
  春の日には山を見たいと思い、秋は夜の川のせせらぎがさわやかである。
  朝の雲に隠れて鶴は乱れ飛び、夕べの霧の中に蛙が鳴きしきる。
  美しい風景を見るにつけても思わず泣けてしまう。都として栄えたいにしえを思えば。

  明日香川の川淀にいつも立ち込めている霧のように、私の懐古の情は簡単に忘れさるような慕情ではないのに。
場所  高市郡明日香村飛鳥・飛鳥寺境内(揮毫者・佐々木信綱)
原文    登神岳山部宿禰赤人作歌一首併短歌
  三諸乃 神名備山尓 五百枝刺 繁生有 都賀乃樹乃 弥継嗣尓 玉葛 絶事無 在管裳 不止将通 明日香能 
  舊京師者 山高三 河登保志呂之 春日者 山四見容之 秋夜者 河四清之 旦雲二 多頭羽乱 夕霧丹 河津者驟 毎見 哭耳所泣 古思者
   反歌
  明日香河 川余藤不去 立霧乃 念應過 孤悲尓不有國
写真  

  
2011.2.13
飛鳥寺には古い石碑が多く、どれが何だかわかりにくかったですが
「どーん」と「万葉歌碑!」と立て札があったのにはコケました。



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